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思考のたれ流し

映画「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」感想

filmarks.com

 

  「フリッツ・ホンカ」は実在したドイツの連続殺人鬼、らしい。ある程度事実に基づいた話であるということを念頭に置いたうえでの感想です。

 

  酒浸りで独り身のホンカは、底辺ではないが、裕福ともいえず、外面もよくない。住んでる家も、古いアパートの屋根裏。たまに、酒場で引っ掛けた身なりの汚い女を家に連れ帰って、想像もしたくないような行為に及んだりする。連れ帰った女を殺す場合があり、そうした場合遺体の一部は切り取って外に遺棄し、残った部分は家の隠し収納スペースに放り込む。こうした行為を何回も行っているため、当然腐敗臭がアパート全体に広がっており、最終的に死体から湧いた蛆が階下の住人の家に降り注ぎ、犯行が明るみに出て最終的に逮捕される。

 

 まず思うのが、ホンカのルーツについて何も触れられていないこと。上述したような表層的な事しかこの話からは汲み取ることができず、映画の主体になっているのに行動原理が漠然としすぎてて一体どういう人物なのかがよくわからない。ホンカに対して一切の共感が出来ないので、ホンカの視点で描くのが失敗だったようにも思える。

 

 次に、ルーツがわからない=バックグラウンドも当然不明瞭で、どういう論理展開で殺人を犯すのかが一切語られていないこと。連れ込んだ女を全員殺すのならまだわかるが、殺さない女もいたのでそれも一貫していない。論理展開がわからない無秩序、無計画な殺人なので、恐怖を感じるプロセスをすっ飛ばしちゃってる。「え、殺すの?」って思ってしまう。「殺されるかもしれない」っていう不安の種はあっても、それを育てる過程がない。あっけらかんとしすぎててひとかけらも恐ろしさがない。

 

 殺人鬼を主題としているのに、ホンカ自身に一切の魅力がない。ここでいう魅力は外面とかそういうたぐいの話ではなくて、「カリスマ性がある」とか「徹底した美学を持っている」とか、そういう内面に秘めてる哲学の話。ホンカは「羊たちの沈黙」のレクターみたいな圧倒的な知性を持つわけでもなく、「セブン」のジョン・ドゥみたいな静かな狂気に満ち満ちているわけでもない。彼らみたいな「魅力的な殺人鬼」に比べると、ホンカは「矮小な小市民」。最後、自分が目をつけていた美人な娘がすぐ近くにいるのに、自分の家に警察が入っているのを見て、「捕まってしまう」と恐れているところからして、生来の異常者でないことは明らか。レクターなら、ジョン・ドゥ、ならそんなことは気にせずに娘に手をかけていたんじゃないですかね。ifの話ですが。

 

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レクター博士とジョン・ドゥ

 

 思うに、映画における殺人鬼が恐怖の象徴になるのは、その秘めたる異常性が観客に知らしめられるときではないんですかね。そう考えると、ホンカがそういう異常性を発揮したシーンがない。ただむやみやたらに性欲だけ強い小汚い中年が、気分で殺す。それだけ。とにかく頭の悪さだけが際立ってしまってて、殺人鬼を主題とした映画にしてはあまりにもお粗末。それとも、カリスマ性のある殺人鬼ばっかりじゃないよ、こういうバカな殺人鬼もいるよ、ってことを言いたいんでしょうか?だとしたら映画にするほどのことでもないし、ものすごくつまらない。たまたまスペシャルデーで通常1900円のところ1100円で鑑賞できましたが、それでもなお高いと感じるくらいにはお粗末。ただただ汚らしく下品で不愉快なシーンが多いだけで、わざわざ金を払って観るには値しないと断じたい。

 

 しかも遺体の一部だけ切り取って家に残してた理由も謎(記憶が正しければ、最後まで語られず)。一体なんなんだ。

 

久しぶりに面白くない映画が観れたので、感じたことをざっと書きなぐった。口直しにセブンをもう一回観たいと思えました。