青は透明

思考のたれ流し

映画「ブラッド・ダイヤモンド」(2006) ダイヤを求めて流れる血【ネタバレあり】

filmarks.com

f:id:pinfinity6142:20210219230936p:plain

blooddiamond

備忘も兼ねて久々にきちんと文章書こうと思います。

この映画、大学生のころに授業で見て印象に残っていたんですがもう一度視聴してきちんとした感想を記します。

 

いわゆるシエラレオネにおける「紛争ダイヤモンド」にまつわる話。

ダイヤモンドはその産出国に大きな利益をもたらしますが、特に紛争地帯などでその利益が紛争の資金源になっているものをそう呼ぶそうです。ダイヤの売却によって得た利益で紛争国は武器商人から武器を購入する⇒武器商人は国を問わず支援するので、多くの武器が紛争国に流入する⇒紛争がさらに激化する、というまさにダイヤの産出によって起こる悪循環。まさに血塗られたダイヤ、ブラッド・ダイヤモンドです。

 

ディカプリオ演じる主人公ダニー・アーチャーはそんな悪循環に加担するダイヤ密輸業者のひとりで、紛争国に武器を引き渡す代わりににダイヤを受け取り、複雑なロンダリングの末に利益を手に入れる狡猾な人間です。

 

一方、そんな悪循環に巻き込まれてしまう無垢な漁師、ソロモン・バンディーはRUF(革命統一戦線、Revolutionary United Front)という武装勢力に家族を攫われた上(しかも息子ディアはRUFの戦闘員として洗脳される!)、自らはダイヤ採掘の労働力として奴隷にさせられるという憂き目に遭います。ちなみにRUFは言うなれば反政府の無法者集団であり、略奪虐殺当たり前、人道なんて知ったこっちゃない完全に世紀末の様相を呈しています。

まとめると、

ソロモン「家族といっしょで幸せ!」

RUF「政府と戦争するぜ!でもそのためには武器がいる!武器を買うには金が要る!俺らはダイヤの原産地を抑えてるから、一般市民を拘束して奴隷にしてダイヤを掘らせ、見つけたダイヤを売って稼いだ金で武器を買う!お前労働力として使うからちょっとこいや」

ソロモン「何もしてないのにダイヤ採掘奴隷にさせられた」

アーチャー「武器売るから奴隷が掘ったダイヤちょーだい」

RUF「まいど!」

こんな感じ。

 

奴隷となったソロモンは採掘の最中、通常ではありえないサイズのピンクダイヤを見つけてしまいます。こっそりと持ち出して地面に埋めようとしますが、RUFのポイズン隊長に見つかってしまい一大事。しかしここで政府軍による爆撃が行われ、採掘地一体は大混乱。それに乗じてソロモンはピンクダイヤを隠します。

 

RUF、奴隷共々シエラレオネの刑務所にぶち込まれますが、そこで負傷したポイズン隊長がソロモンを見つけ「あのダイヤを差し出せ」と脅しますが、ソロモンはすっとぼける。しかし大声で騒ぎ立てたため、ある人物にもそのダイヤの存在が知られます。その人物こそアーチャーです。実はアーチャーは爆撃が起こる前にダイヤ密輸が国境にてばれてしまい、同じ刑務所に投獄されていたのです。根回しにより自分は刑務所から出て、ダイヤのありかを知るためにソロモンも同じく釈放させます。ここから物語は始まります。

 

大粒とピンクダイヤとなればとてつもない価格がつくでしょう。アーチャーはとにかく金が稼ぎたいため、ソロモンにしつこく付きまとってありかを教えてもらおうとしますが・・・。また、途中でダイヤ密輸を追うジャーナリストの女性マディと出会いもあり、事態はどんどん進展していきます。

 

まあ、導入のあらすじはこんなもんでいいでしょう。主要な登場人物とその行動原理を記す。。

【アーチャー】

恐らく利益でしょうが、意外なことに彼の行動原理は明確になっていません。

途中ピンクダイヤの隠し場所へソロモンと向かう途中に、こんな問答があります。

****************************************************************

ソロモン「金は持ってるのか?(資産という意味で)」

アーチャー「少しな」

ソロモン「まだ足りない?」

アーチャー「まだだ」

ソロモン「あのダイヤで十分な金が手に入る」

アーチャー「ああ」

ソロモン「なら結婚して子供を作る?」

アーチャー「多分しない」

ソロモン「理解できない」

*****************************************************************

恐らく何かの為に金を稼いでいるということではなくて、利益を追求することが目的になってしまっており、本人も自分の行動原理をよくわかっていないように見えました。

 

【ソロモン】

家族。これに尽きる。ソロモンが家族以上に大切にしているものなどないといっても過言ではないでしょう。だから上記のアーチャーとの問答で「理解できない」と言っているのでしょう。恐らくダイヤをちょろまかしたのも利己心からではなく家族のためでしょう。作中では妻ジャシーや息子ディアのために自分を見失って取り乱したり、かなりの無茶をしてしまいアーチャーがイライラします。これぞ価値観の相違。アーチャーとの相性はその性質ゆえかなり悪く、マディとは比較的良好。同情もあるしね。

 

【マディ】

正義。彼女はジャーナリズムのあるべき姿の体現者とも言えるような人間で、ダイヤ密輸という悪を追跡し、世間に公表して裁くという信念の名のもとに行動します。彼女にとってアーチャーは追跡するべき対象で、ソロモンは被害者である。

 

最も利己的に見えるアーチャーの行動原理がよくわからないのが面白い。もっと言うとたぶんアーチャーは自分の本質を見失っている。幼いころに両親を殺され、そこからは軍役、多くの戦争経験をアフリカという地で経て今のアーチャーを形成している。金はあれど彼の心はどれだけ豊かだったのだろうか?大切な家族に囲まれて、愛をはぐくんだソロモンや、正義感に燃えて世界を飛び回るマディと比して、彼の行動原理のなんと空虚なことか。本来であればなんとなくでも持っているはずの「生きる目的」そのものを、金を稼ぐことにすり替えているように思える。途中からは、ソロモンのように他者に愛を持つことに理解を示していくように見える。マディのジャーナリストとしての正義感にあてられて、自らの行いを非として認めだしていくような雰囲気がある。

 

家族愛に生きる男ソロモン、正義感に燃える女マディとともに行動していく中で、見失っていた自らの本質を再発見していく、そんなストーリーに見えました。

 

もともとアーチャーはピンクダイヤの売却利益をソロモンを差し置いてコッツィー大佐(民間軍事会社の大佐、ダイヤの知識や密輸について教えてもらった育ての親みたいなもの)と山分けする計画を持っていました。ソロモンは隠していたピンクダイヤを掘り出しますが、大佐たちがアーチャーを見限った上(これはアーチャーが命令に背いたりしていたことにも原因がある)に、ソロモン、ディアにまで危害を加えようとしたために、最終的に大佐を裏切ってソロモンたちとシエラレオネをヘリで脱出しようとします。しかしアーチャーは実は撃たれており、ヘリの来る尾根までソロモンに担いでもらいましたが、もうダメだ、俺を置いていけというのです。

 

そう、ピンクダイヤをソロモンに渡して。

 

 

出血量から自分の命が長くないことを悟ったアーチャーは、懐から掘り出したピンクダイヤを取り出し、それを見て意味ありげに笑います。

 

心の声が聞こえてくるようです。

 

こんなちっぽけな石コロのためになんで誰も彼も争ってしまうのか、そして俺自身もその諍いに巻き込まれてしまうなんて、本当にバカらしい。

 

そんなふうに。

 

そしてそれをソロモンに渡します。

 

ソロモンは当然驚きます。横取りするはずだったんではと。

アーチャーは言います。「少し考えたさ」、と。笑う二人。

 

ソロモンとは今生の別れになります。ソロモンは担いでやるから大丈夫、と言いますが、ここのやりとりがディカプリオの演技込みで本当に泣けてくる。あれだけ利己的だったアーチャーがこんなこと言います。

 

「連絡先を渡すから、帰ったらマディに電話で連絡しろ。(銃を渡しつつ)それから脱出ヘリのパイロットは信用するな、妙な真似をしたらこれで脅せ。息子を家に連れて帰れ。」とどこまでもソロモンの心配。

 

アーチャーもきっと生来は思いやりのある優しい人間だったはずです。ここはそれが見て取れるなんとも人情味のあるシーンで、大好きです。自分の本質をここで見つけられた気がする。

 

ソロモンと別れてから、アーチャーはマディに最後の力で電話をかけて別れの挨拶をします。ここ名台詞。

 

「I'm exactly where I'm supposed to be.」(俺は俺があるべきところにいる)

 

日本語訳だと「これでよかったんだ」しか訳されていませんが、解釈としては、、、

アーチャーは白人ですがアフリカ(ローデシア)出身です。アフリカという広大な地は彼の故郷なのです。今いるこの地こそが自分の故郷であり、そこで今死ぬことに寸分の間違いはないと。まるで後悔の念も感じない表情でそう言い放ちます。恐らく彼の中では、どこかでこの金ばかりで空虚だった人生に、ソロモンとマディが最後に意味を与えてくれたからこそ言えたことだと思います。

 

最終的にはアーチャーが暴露したピンクダイヤの売り先(イギリスのダイヤモンド会社)を、マディが記事を書いて告発することで、紛争ダイヤモンドという負のスパイラルがこの世から消えていくきっかけとなります。3人によって正義はなされたのです。

 

印象に残っているシーンですが、コッツィー大佐が、「この大陸の赤土は、流れた血の色だ。」ということを言います。争いで数多の血が流れたことの皮肉でしょう。アーチャーは最後、自分の銃創から流れ出る血が土に滴っているのを見ます。その手で土を握りしめて、彼は何を思ったのでしょうか。まあ、そこまでは野暮なので敢えて言わないようにします。

 

長くなってしまった。それにしてもディカプリオは本当に名優ですね。